（御姿騙りは自ら語り）

「私は一体何が出来たのかなあの人たちに対して。ただ金儲けのためだけに作られた神様を信じてそれを語る『先導様』を信じてひたすら素直に祈ってたあの人たちに対して。家族の幸せを祈るためにその家族と喧嘩してたった一人になってもまだ家族の為と信じて居もしない作り物の神様に祈るあの人たちに対して。二分したとしても悪人には含まれないような人たち。人を信じて『先導様』を信じて自分も家族も幸せになると信じて祈ってるあの人たち。『先導様』なんかじゃなくて、家族を信じろって言えば良かったのかな。でもそれは僕には無理だったんだ。だって『先導様』は腹の立つことに完全に自分と血の繋がった父親だったから。僕が『家族を信じろ』って言ったら矛盾するんだ。あの人たちの家族は正しいかもしれないけれど私の家族は正しくない。僕の家族とあの人たちの家族はイコールで結ばれないんだから、その理論だって矛盾せず成り立つはずなのに。それでも説得力が無い。それに何より信じないんだ信じない信じて貰えない。あの人たちは全く一心に『御姿』を『先導様』を信じているから私の言葉は逆に『信仰を試しているのだ』としか受け取られない。全く思い込みって厄介だ。だから僕には何も出来なかったんだよ精々新しい人が来たら早めに手を引くように薦める程度だけどそれだってロクに出来やしなかった。『奇跡の担い手』と直接触れ合う段階まで来た人は既にもう『先導様』を信じている。もう信じきった人たちには私の声は聞こえない。優しくて穏やかで目指すべき目標である相手の言葉と、いまだ道理もよく分かっていない未熟な子供の言葉、どっちを信じるかなんて分り切った事。私の言葉なんて聞いて貰えない。彼らには『私の言葉』は聴く価値のあるものじゃない。何か出来るというのが傲慢な思い込みかな。ならば自分の言動が彼らに何一つ偏りのある影響を与えるものではなかったと言えるかな。誤っていると知っている情報を隠し真実だと思わせる言葉は何の影響も与えないのかな。そんな筈は無い。けれど彼らはその言葉しか求めていないし聞いていなかった。求めないように聞かないようにされていた。馬鹿だって言ってしまえばそれまでだけど、それでも、悪意なんか無くただ自分と自分の周りの幸せを願うごく普通の人たち。誠実に敬虔に質素に日々を過ごして『先導様』に金を払って身を尽くしてそれで幸せになれるんだって笑う人たち。知っているよ神様は実利だけを求める訳じゃなくて他のもっと違うものを求める場合もあるなんて事は。だからその点で言えば全く持って問題無いよ『先導様』とその周りの人は実に口が上手いから見せ掛けにしてもなんにしても安心感はきっとくれるだろうさ金が尽きない限りは。本人が納得してるならそれに口出す事は無いのかもねああそうだねあの人たちはそれで幸せなんだよ私が余計な事を言ったらそれこそ逆に突き落とす事になるんだ長い目で見てどっちがいいかなんて私には分からないよ信じて死ねるならそれで幸せかも知れない安らかかも知れない。或いは偽りと知って例え一時どん底に落ちても立ち直ることが出来たらそれが幸せかも知れない。でも立ち直れなかった場合はどうする誰が救ってくれるんだ信じた神はいないあの人たちが信じてた神様はいない新しい寄る辺をすぐに見つけられる人ばかりじゃないんだ。けれどもいない神様を信じ続けて現実の人間を失って居る方が遥かに不幸な気がしてならないんだよ僕は。だけどあの人たちから寄る辺を取って、それで何かを提供する事は私には出来ない。与えて奪って後は放置するのか？騙される方が悪いと笑うのか？自分を信じろって言うのは簡単だ言うのはねでもそれが難しい事なんて誰でも知ってるだろう何よりも自分自身に失望し切っている人だって少なくなかったんだ自分が信じられないから他人に神様に縋っている人だって少なくなかったんだ。自分が不安定だからもっと確かと思えるものに手を伸ばす人だっていたんだ。彼らが金を払いながら得てる安心とそれを奪った場合の影響を私が主観で天秤に掛けて取捨選択するのは正しい事か。僕は私は否と思った。真実なんて主観で変わるし、私の正義は押し付けられない。私の判断で相手の寄る辺は壊せない。それはとても痛い痛い痛い。だから私は誰が何信じてようが、それが正しいと思うのならば好きにすれば良いと思う。私に対して何の害も及ぼさないのならばそれに対して好悪は持たない。信じたいならば信じればいい。私が私という曖昧な見えない自己を信じるのと何の差異がある？だけどそれを他人に押し付けて隙間に入り込んで根こそぎ判断を奪ってそれで得してる人間は、嫌いだ」

　　　　　　　　　（――声が笑う）