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(何の事も無い)










暗い地下で息を吐いた。
夜ともなれば微かにそれも白む時期、冷たい空気が周囲に満ちている。
提げた灯りは十分とは言えずとも不便では無い程度に辺りを照らした。
考えてみれば、白燐蟲から黒燐蟲に体内の蟲を入れ替えて最も感じた差異と言えばこれかも知れない。
夜にゴーストタウンに向かう事も多い身としては不便と言えば不便だったが、元から蟲を持っていない人間にとっては当たり前の事なのだろうから仕方ないと割り切ることにした。

そういえば蟲の入れ替えこそしたものの、蟲自体を手放そうとは考えた事も無い事に気付く。特別に拘っていたつもりは無いのだが、使い慣れたものというのはそうそう手放そうと考えられないのかも知れない。
或いは意識していないが、皮膚の下を這うこの感触に慣れ切っているのか。

まあどうでも良い事だ。

暗い色の壁は年月を重ねた故か、元からか。
土日の仕事が休みとなったので金曜の夜から大阪の地下街に潜っているのだが、肉体的な疲労は今だ訪れない。
娘夫婦と孫が訪れるから、とさっさと休日の臨時休業を決定した老店主を思い出して一人肩を竦めた。
古書店に勤め出したのは住居の大家からの紹介だ。考えるより先に言葉が出ているように思える大家と、口数の少ない書店の主に接点を見出せず当初はその関係に疑問を覚えたが、知ってみれば何の事は無い、子煩悩――この場合は孫煩悩というべきか、その仲間内だったという話。

折々に聞かされる孫自慢は些か過剰ではないかと思うが、それでもまあ、親馬鹿の範疇で済ませていい程度なのだろう、多分。
適切な愛情の注ぎ具合というものは分からないが。
だが少なくとも、遠方へ出向いた際に半日も置かずに連絡をしてきた挙句、帰ってきた途端に逐一の行動と体調と気分を問い、どれだけ気遣っていたかを聞いてもいないのに延々と述べてくれた自分の母親よりはマシだろう。思い出すだけで頭が痛い。
寧ろ思い出したくも無い。

要らない事まで連想したせいで耳元のざりざりとしたノイズが僅かに大きくなる。
今はそれはどうでも良い、地下街の最後の領域を回る事に集中すれば良い。

「クログターの十六塔内の柱もこんななのかな」

一人だけという事もあって然程大きくも無い声量で『声』に問えば笑い声だけが返って来た。どうせ今ははっきりとした返答を求めた問いでは無かったので構わない、その笑い声も進んだ先でシャッターが勝手に開く音でひと時掻き消される。
片手に持った青紫のギターを肩に担ぎ、石畳を靴底で叩いて音を立てながら通路を駆け抜けた。

一度横に現れた気配を無視して先に突き進めば、背の直ぐ近くに気配が移る。

それを確認してから踵を返し、敵の真っ只中へ。
大体に置いてゴーストは逃げ場を塞ぐように四方を囲むが、この場合は好都合。
老婆の手を屈んでかわし、少女が振るう斧を寸での所で避けると、中心で蟲を解き放った。勢い余って獲物を捕らえられず空中に彷徨う蟲もいるが、食らい付いたものは瞬く間に敵を貪る。
蟲を逃れた若い男の姿をしたゾンビの振るうナイフが腕を掠めるが大した事はない、ギターを振り下ろしてその頭を割った。
見た目の割に頑丈なリリスは、背負った袋を盾として身を守ると再度手斧を光らせる。
生半可な攻撃を与えるとすぐに回復してしまうその特性を思い出し、体内を蠢く蟲の力だけを集める感覚で睨め掛けば、少女は蛇と共に悲鳴を上げて仰け反った。
更に手斧を振り回そうとした様子だが、身を毒に侵されてはそれも侭ならずに崩れ落ちる。

気配は未だ其処彼処に感じるが、第一陣は切り抜けたらしい。
落ちて浅く刺さった手斧が自重で倒れた後は、静寂と入れ替わるように囁く『親愛なる友人』たち。
そういえば完全なる静寂というのは久しく感じていない気もするが、だからどうという訳でも無かった。
靴が石畳を叩く音が、先程駆けた時よりは緩いペースで響いて音楽の絶えた地下街のBGM代わりとなる。

背に冷気を感じて振り向くと、薄らと凝る残留思念が視界に入った。
常の習いで詠唱銀を振り掛ける、と、途端に頭に響く、『声』ではない声。
救済を求めるその叫びが余りにも大きくて、思わず額を押さえた。

そうだ、忘れていた、この場所は特段に残留思念の残す苦悶が強かったのだ。

思念を無視すれば良い話なので忘れていたが、忘れていたというその事実すら忘れていたと言う事は矢張り少々疲れたのかも知れない。
助けてと叫んだ声に対抗するかの様に、ノイズと共に『声』が大きくなる。


(けたたたたけたけた)
(無いよ無いよ無いよ無いよ、チュイオズの密雲は禍因となったんだ)
(示唆士の話は聞いたか、炉塞ぎの頃にあったあれだ)
(いいいいいいいあああああああ)
(応需してしまえば良いのにとろすぃうは言ったのだけれどね――)


「……あー、もう」

声を出して頭を振れば幾つかは薄れて散る。
戻るには少々早く、先の戦闘で蟲もざわついたままだ。
ならば最後まで行くのが良いだろう、一度出たら、次はこのシェルターではない場所に向かえば良い。

武器としての形を取った思念を拾い上げ、奥へと視線を向ける。
無理をする気は無い、一人でいるのだからその程度は自己管理の範囲内だ。

首を鳴らして、休日の暇潰しを続けるべく歩き出した。

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