PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
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紺藍の海が飛沫と共に眼前に広がり、それと同時に青と白の混ざり合ったマーブル模様が瞼の裏に弾けて白い光が明滅した後に薄赤い泡が底から立ち上るのが見えた。海底には不揃いな楕円をした深海生物の卵が孵化を求める様に転がっており、卵の表面には見事な幾何学模様が描かれている。傍を悠然と泳ぐ生物には幾つもの瘤の様な目があったが、全て昆虫の複眼染みた感情の無い目だった。水流に揺蕩うその尾は細く長く、何本も束ねた紐を踊り子が手慰みに回している風景を思い出させる。尾の先には真珠色の球がついていて、揺れると水中だというのに涼やかな音を立てていた。音に誘われる様にして海底を歩く。銀と金の砂が足を踏み出す度、静かに舞った。歩く内に蜂蜜に似た色の池が現れ、手を入れてみようとしたが"それは南草水銀ですよ"と囁く水草の声に思い止まる。親切な水草は淡灰色の葉を延々と回転させながら、小さな発光する深海生物を貪り食っていた。貪り食われながらもその生物は触手とも足とも付かない器官をうねらせ、幼生を撒き散らし、自らの遺伝子を残そうと足掻いている。しかしその幼生も、自分より僅か大きいだけの蛇に似た生物に飲まれて次々と消えていた。蛇は一定数の幼生を食べると悶え苦しむ様に体を痙攣させ、脱皮していく。いや、それは脱皮ではなく分裂であった。抜け殻に見えたその半透明な姿も、また意思を持って幼生を飲む作業に戻る。分裂し一回り大きくなった蛇は、海面を目指しているのか一直線に上へと向かっていった。見上げてみれば、深い緑、黒に似た緑が薄ぼんやりと明るく頭上に広がっている。星々の如く光っているのは、先程の発光する深海生物だろうか。親切な水草はどうやら食事に専念し出した様子なので、転々と続く緑と黒の縞模様の岩を追いかける事にした。針鼠の様な鋭い突起を持った岩は、時折ナメクジの様に這って、海底を歩く小さな蟻を刺し貫く。蛍光黄色の蟻はハヤニエの状態で、何かの弾みで外れるまで、或いは腐り風化するまで突起の先を彩り続けるのだろう。蟻の上げる悲鳴は夏の日に聞く風鈴の様で耳に快い。そう思いながら、薄い藍と乳白色に変わった色の中に足を進める。渦巻く海流の中心では、人に似た何かが不気味に踊っていた。人の厚みを三分の一にしたら恐らくあれに近くなるのだろう。自らの意思なのか、流れに押されているだけなのか、その薄い腕を、子供が蝶々の真似事をするかの様に振っている。嫌悪感に後押しされて、それから視線を外し、硝子が割れる様な音を立てる方へ向いた。背を向けようが何をしようが、あれは変わらず踊っているのだろう。銀と金の砂を軽く蹴り上げると、半透明の薄い布が浮き上がる。いや、布ではない。それもまた恐らく生物なのだろう。触れようと手を伸ばしたら、指の間をすり抜けて、再び砂の間へ潜ってしまった。捕らえる事を諦めて、鈍く光る先を求める。硝子の割れる音はどんどん近くなり、既に顔の左右で割られているかの様だった。衝撃は無いが、鼓膜に響く音。音と光が鮮やかになっていくにつれ、自分が何を求めて紺藍の海に飛び込んだのかを徐々に思い出して、歓喜の叫びを上げる。やっと見つけた!
(そして黄色と灰色の模様が目の前で弾けた)
(そして黄色と灰色の模様が目の前で弾けた)
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