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PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
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「――viola だ」



聞こえた声に、『声』を綴る手を止めて振り返る。
脈絡の無い単語。
ヴィオラ。浮かんだのは楽器だが、続く台詞で江間が指したのは違うもの。

「花の名前だよねェ? 菫センパイの名前って」

花。何語だろう。
こちらを向いた顔と軽く目線を合わせる。

「うん? ああ、男だとあんまいないかな」
「ふうん」

確か、このやたらと生徒数の多い学校でも、同じ名前で男子はいなかったと思う。
同意というよりは頷きに近い相槌が返り、そして思い付いた様な言葉が続く。

「…もしかして、兄弟も花の名前ついてたりする?」
「あれ、よく分かったね! うん、上が菫で下が薊!」

名付けの理由を問うた事は無いが、あの親の事だ。
どうせ大した意味合いを持つものではなかろう。

そして私が菫だから兄弟は薊。
単純な答えを一人心中で導き出して笑う。

「アザミ、ええと、女の子?」
「いや? 両方男!」

くるりと手元でボールペンを回した。
半回転したそれは、上下逆になって再び手に収まる。

「へー、お兄ちゃんなんだ。そっちはいくつなの?」

何気なく問われた言葉に、指折り数えようとして止めた。
数えてどうなるものでもないし、何より記憶が曖昧なので数えられない。

「さあ、死んだ子の年は数えるなって言うらしいしねぇ」

ちりっと過ぎった残像に、少しだけ意識を取られた。
笑う顔、怒る顔、泣く顔――どれもあまり覚えてない。
声すらも正しく記憶で反復出来るかどうか。
ただ覚えているのは、目。一つ。同じ色。

「――そうなんだ」

しかし、平坦気味な江間の声にそれも消える。
さて、あれから何年だ。忘れた。覚えて無くてもいい。
菫の役には立たない事。
だからまた忘れる。
気遣われる事ですら無い。

「まあ分かり難いよね、この名前! 江間クンみたいなのだったら分かり易いかもだけどさ?」
「ン? オレの名前、分かりやすい?」
「少なくとも男だっては分かるんじゃないかなぁ? 読み方は咄嗟に分からないかもだけど、漢字的に!」

小さく首を振って返すと江間は不思議そうな顔をし、言葉を重ねれば納得した風に頷いた。
人の名前を覚えるのが苦手な自分だが、流石に同じ結社の人間程度は――まあ五割くらいの確率で――フルネームを覚えている。
時折、この学校は何かの冗談じゃないかという読み方の名前がいるので(それは大半、本人の責任ではなかろうが)、普通の漢字の並びでも油断はならない。
それでなくとも名前の読み方など地方によっても差が出るのだから、と、それだけの意味だったのだが、江間は微妙な笑いを浮かべた。

「…男親の名前なんだよねェ、コレ。もう死んでんだけど」
「? 同じ名前?」
「うん、えっと、文字が。ヨシタダって言う人だったんだけど」

呼ぶ時に不便じゃないのか、と思って発した問い。
返った答えにああ、と頷く。

「同じ漢字でつけたの? 襲名……だっけ、そういうのある所?」
「え? えーっと、シュウメイがわかんねェ」
「んー、何だろうねぇ、親とか何かの師匠とかの名前を継ぐやつ! 
 ま、今はそれこそ歴史ある家とか伝統芸術の方じゃないと滅多に無いだろうけど!」

まあ、戸籍やら何やら煩雑な書類の多い日本では、誤解の元になりかねないという事だろう。
ただ江間は(普段の言動を見る限り)他国に居た方が長い様子だから、祖父や父からそっくり名前を継ぐ場合もあるかも知れない。
しかし、相手は些か自信なさ気に声を落とした。

「いや、多分そんな立派なのじゃなくて、単にヨシタダがいなくなったから、お前がそいつになれって、いう、」

言葉が止まり、視線がこちらに向く。

「…あれ、こういうのもシュウメイっていうの?」
「それは襲名って言うよりは……。……いや、」

―― 予備品みたいだねぇ。

思い浮かべた言葉は、音にまでは乗せずに引っ込めた。
一つなくなった、補充しよう。
重要な部品であればあるほど、それは即座に代わりが求められる。

ただ、流石に本人を目の前にしていう言葉でも無いだろう。
本人を目の前にしなかったら言う必要も無いだろうが、まあともかく。
どう言葉を続けようか考える前に、江間が沈黙を切った。

「…や、名前自体はいーんだ、別に。別に、何だって、何て呼ばれたって、それがオレを呼んでるんならオレは返事するし」


「でも、」

更に何かを続けようとしたのかも知れないが、そこで止まる。
江間の視線は泳ぐというよりは何処かに固定され、先が出てこない。
ふむ、と考えて首を振る。

「まあ、名前なんて他人から個を区別するだけのもの、って言っちゃえばそれまでだろうけどね!」

――だから私は何度も呼ぶ訳だけれど。
続く言葉はやっぱり出さない。

その台詞を江間がどう判断したのかは分からない。
が、瞬いた後に紙パックを潰し、表情がぼんやりした物から照れた様な笑いに変わった。

「…やんなっちゃうねェ!」

常の声の調子に戻って江間は立ち上がる。

「ヴィオレッタ、ヒマなら今からアミーゴいかない?」

赤くなり始めた陽光を身に受けながら、ふざけた調子で問う相手に笑い返した。
適当な時間だ、そろそろ教室を閉めても良いだろう。

「ヴィオレッタじゃなくて菫なら暇だよ! ……まあ私は数多いからアミーゴちょっと面倒なんだけどね!」
「んじゃ菫センパイ。アザレアいこーよ」

すぐに口調も戻した江間が先に出るのは視線で見送った。
ノートを鞄に突っ込み、掌で鍵を転がす。
金属の輪とぶつかって起きる小さい音の合間に、『声』が聞こえる。

(キーヤ、キーヤの身鳴る)
(それは何だっけ?)
(イルシャは大切な物。失くしたらいけないもの)
(失くしたら?)
(失くなってしまう)
(良く分かんないね)


会話を切ると、見えない『親愛なる友人』に向けて肩を竦めた。


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鬼頭・菫(おにがしら・すみれ)
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