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PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
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――帰り道。









「あ、玖凪クン玖凪クン」
「はぁい、あら菫ちゃん!」

日暮れが早い中、見当を付けて名を呼べば同じく名前が返って来る。
振り向いた相手に、ちょっと聞きたいんだけど、と切り出せば玖凪は首を傾げた。

「うふふ、なんでもどうぞ!」
「クリスマスプレゼントって何贈るもん?」
「……それって、女の子にかしらー?」

何だか一瞬止まった気がしたが、唐突過ぎただろうか。
しかしすぐに問いが返って来たので軽く頷く。

「そうだねぇ」
「もしかして茜ちゃんに?」
「うん、よく分かったねぇ。色々お世話になってるからちょっと」

幾ら記憶の浅い自分でも、さすがに学校に通い始めてからの事はある程度覚えている。
増してや別に忘れなくともいいものならば更に。
だから七夕に誘われた事もまだ記憶に新しく、クリスマスの誘いとなればつい最近だ。
気遣いは大して無い方、というかロクにしていない方だという自覚があれば、余計に何か返した方が良かろうと言う気分にもなる。
ただ。

「何をあげたらいいのかさっぱり分かんなくってね!」

自分の想像出来る範囲はかなり狭い。
ついでに贈り物というものをロクロクしてこなかった上に情報過多でさっぱり分からない。
年がそこそこに近いからと親戚の少女に聞いたら『……脳内友達を超えて、脳内彼女か脳内妹でも作ったのですか?』と言われたのでゾンビの群れに蹴り込んでおいた。それはかなりどうでもいい。

「玖凪クンならこういうの詳しそうだから聞いてみようかと」
「そんな事ならお安い御用よ! あたしもねぇ、丁度買いに行こうと思ってたから土曜にでも一緒に行かないかしら?」

それは願ったり。




土曜の昼間という人の多い時間帯に人の多い場所を歩くのは久しぶり。
時期的にか家族連れ他も多い。
だが人ごみを完全に厭う訳でも無いので、なるべく気にしない様にしながらも適当に会話しながら歩く。
どうやら玖凪はこの間一緒に買い物に行ったらしく、ある程度目的は定めているらしい。

「香水に興味あるみたいだったから、香水とかいいんじゃないかしらー?」
「んー、香水……でも私さっぱり分からないんだけど!」
「やっぱり女の子な訳だから綺麗なのとか可愛い瓶がいいと思うのよねぇ。匂いは、優しい……菫ちゃんが好きだと思う匂いでいいと思うわよぅ」

殆ど意識した事も無いものなので想像が中々付かない。
瓶は瓶じゃないのか、と思いつつ、玖凪の案内に従い店の化粧品売り場へ。
独特の香りと、同じ色が並んでいる様に見えるラインナップに瞬く。

「……わー、未知の領域ー……」
「香水売り場はこっちねぇ」

更にその一角、他よりも色鮮やかな場所は――。

「……数多」

思わず呟く位には瓶が並んでいた。
ついでに認識を改めた。瓶は瓶でもやたら種類豊富だ。
玖凪は当たり前だと笑う。

「そりゃねぇ、新作とか一杯出てくるし。あたしもちょっと欲しいものあるから、菫ちゃんここで選んでてねぇ」
「……あれ、此処に置き去り?」
「だって菫ちゃんが選ばなきゃ意味ないじゃないのよぅ!」

正論といえば正論だが。
逡巡する間に、すぐに戻るからとポニーテール姿は違う場所へするりと抜けていった。
後に残るは自分のみ。
確かに此処は自力で選ぶべきだが――。

「…………いやまあ、そうなんだけど」

ぽつりと呟いて、明るい光の下で輝く瓶を流し見る。


こういう店に訪れる機会自体はそこそこにあった。
無論、自主的にでは無く母親に連れられて。
とは言っても子供連れで化粧品売り場に来る訳も無く――あの相手に関して言えば、少しの間でも子供を放って置く訳はなく――『喜ぶ場所』と決めた場所に連れて行かれただけだが。
別に欲しくも無い玩具やら何やら。
家に帰っても大概は放置されるだけなのに気にもしない。
買い与えた事実だけが大切なのだろう。
大体あれは――。


更に思考を回そうとした所で、自分が盛大に現実逃避していた事に気付いた。
止めよう。
此処でどうしようもない、どうにもならない事を考えた所で何一つ進まない。
嫌な訳では無いが、どうすれば効率がいいのか分からないだけなのだが。
ともかくにも、と、近くの瓶の説明を見る。

『ハイエンドな気品にロマンチックかつアメージングなムスクとサンダルウッドを……』

…………。

「……何かキエルスカ十一の人がこんな感じの言語喋ってたよねぇ……」

要するに意味が分からない、という事だ。
地道に勝るものはとりあえず現状で無し。
文字で確認するのは諦めて、目に付いたものに手を伸ばした。




「お待たせ! どーう? 何かいいのあったかしら」

言った通り、玖凪は短時間で戻ってきたのだろう。多分。

「何か段々分かんなくなって来たんで最初の方の奴に……」

大抵の事は、慣れれば感覚は麻痺してくる。
後半は段々と分からなくなってきたので、最初の方の感覚を当てにする事にした。
自分の綺麗、や、可愛い、の基準がどの辺りか不明なので持ち上げて見せれば肯定が返る。
会計を済ませた所で肩を竦めた。

「……しょっちゅうあんな所行って色々探せる人は凄いねぇ」
「女の子は常に頑張ってるって事ねぇ!」

努力でどうにかカバー出来るものなのだろうか、あれは。
何にせよ、一先ず用事は終わったので次は玖凪の番。
向かった先は洋服売り場。
とは言っても、男性用。
悩みながら玖凪が自分に合わせる様にしてくるのに首を傾げる。

「ああ、誰か宛かは分かったけど私で大丈夫なの?」
「身長5cmくらいしか変わんないし、大丈夫だと思うのよねぇ。体型もそこまで変わる訳じゃないし!」
「そう?」

まあ本人がそう言うのならば構わない、のだが。

そこから結構長かった。

レジに向かう玖凪の背を、少しばかり安堵して見送ったのを否定しない程度には。
ともかく共に用事が片付いた。
軽く首を振った所で玖凪が戻ってくる。

「お待たせ! 菫ちゃんはこの後何か予定ある?」
「いや、特にないけどっ」
「それならお茶して帰らない? 奢るわよぅー」
「問題ないけど、この場合奢るのは私の気が!」

そうー?と首を傾げるのを横に歩きながら店を後にする。
出が早かったせいか、外はまだ明るかった。




更に数刻して、帰路に着く。
分かれ道が近くなった所で、歩いていた玖凪がふと此方を向いた。

「ねー! 菫ちゃん!」
「何かな?」
「あたし菫ちゃんの事好きよぅ、大事な友達として! だからっていうのも可笑しいけど、これからもよろしくねぇ!」

笑みを浮かべながら言われた台詞に軽く瞬く。
――だがまあ、その笑みが向けられるのは自分だけで無い事も分かっているから笑い返した。
裏表の無い博愛は賞賛されて然るべきだろう。

「どうも有難うね! 私も玖凪クンは好きだよ」
「うふふ、ありがとっ! ちなみにどのくらい?」

身長のせいか意図してか、上目がちに見上げて来たのにふむ、と考える。
さて、『親愛なる友人たち』の間に大きな差異は無いが――。

「デテクットル二十二次元人と同じくらい!」
「あは、それは光栄の至りって奴ねぇ!」

中でも取り分けよく聞こえてくる友人の名を上げれば、玖凪は楽しそうに笑った。
そうこうする内に道が来て、軽く手を上げて振る。
まだ暗いまでは行かないし人通りもある。問題あるまい。

「それじゃ、また学校で!」
「また学校でねぇ!」



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鬼頭・菫(おにがしら・すみれ)
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学生
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