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PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
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(それを信じているのならば)




夕日に照らされ、ランドセルを背負った少年の影が道路の上を滑る。
その後ろから、一人の少年が駆けてきて隣に並んだ。

「兄さん、どこ行くの? もう遅いよ?」
「まだ早い」
「だってもう五時になるよ? 早く帰らないとお母さんが心配する」
「そりゃあお前はね」

僅かも視線を向けずに答えた兄に、弟は眉根を寄せた。
それに気付かない振りをしているのか、兄は道路の先を見たまま先へ進む。
弟は少し離れた距離を早足で埋めて、首を振って反論を紡ぎ出した。

「そんな事ないよ」
「へえ?」
「お母さん、きっと兄さんの事だって、僕と同じ位好きだよ」

初めて兄が立ち止まる。
下を向いていた弟は、数歩進んでからそれに気付いて振り返った。
紫の瞳が細められているのは、弟の姿を逆光で見ているからだろう。
だが。

「……へえ?」

先の気の無い相槌とは違い、多分に嘲りを含んだ言葉。
困惑したような表情を気に止めた様子は無く、兄は肩を竦めた。

「本当に、そう思っているの?」

弟がその言葉の意図を問う前に、兄は何の前触れもなく彼を突き飛ばした。

「わっ!?」

アスファルトに尻餅を付いた弟と手を伸ばした兄の間を、小さい何かが過ぎっていく。
にちゃり。
何処か粘着的な音を立てて着地したのは、猫だった。
動くはずは無い猫だった。

腹から何かが飛び出していた。
眼窩から目玉が落ちていた。
足から白い骨が覗いていた。
あきらかに死んでいた。

それでもその猫は、にゃーお、と甘えるように鳴いた。

ずるずるずるずる。
内臓を引き摺り、二人の方へゆっくり、ゆっくり近付いてくる。
弟は目を瞬かせる。
しかし。

「本当にそう思っているなら」

兄は場違いなまでに平素の声で続きを述べた。
父親の『仕事』の場所にしばしば連れ出されている兄の言葉遣いは年齢以上に大人びている。
その手には木の棒。
兄は足を踏み出した。
猫が鳴く。

「お前は――」

そして、小さな異形が飛び掛るより早く、左手が握った棒は、その頭を刺し貫いた。
続く言葉は、柔らかくなった肉が潰れる音に消えてしまう。
僅かの間白く薄く光っていた棒はすぐにその輝きを消した。
弟は呆然とそれを眺めている。
猫の四肢が垂れ下がる、兄が手を離す、肉の落ちる音がする。
猫はもう、動かない。
元から動くはずなど無かったのだけれど。
僅かの沈黙。

「──……帰れば?」
「……え?」

再び興味を無くした様に、兄は弟に背を向けた。
何も無かったかの様に。

「帰れば。母さんが心配するんだろう?」
「あ……」

ほんの僅か、彼は猫の死体と兄を見比べていたが、やがてそれ以上の会話は続かないと判断したのか立ち上がって走り去った。
ランドセルの金具が立てる音が遠くなって行く様子に兄が一度、肩越しに振り返る。
自分と同じ程度の背丈の相手が曲がり角に消えたのを確認すると、「菫」は再び前を向いて歩き出した。


(「可哀想に」という言葉はそして誰にも聞かれなかった)

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プロフィール
HN:
鬼頭・菫(おにがしら・すみれ)
性別:
男性
職業:
学生
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