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いつかいつかいつかいつか何時か何時かいつかいつかいつかいつかいつか五日。
そうして見えなくなると知っています。
そうです確か、銅の日もそうでした。
そうです確か、矩の日もそうでした。
そうです確か、錠の日もそうでした。
そうして見えなくなると知っています。
あなたも知っているはずです。
知っていますよね? 知っています。知っているはずです。
(あなたへのてがみ・・七つ時の鉄の日に)
夏休み開始っ!
いやまあ普段と大差ない気がするんだけどね!
んー、ちょっとGTに行く頻度が増えるくらいかなぁ?
結社に行ってもほとんどいつも通り人いるしっ!
春休みとそんな変わんないねぇ。
あ、春休みは土蜘蛛関連でちょっと騒がしかったんだっけ?
菫ちゃんちょっと記憶が曖昧っ! まあ今更っ!
そういや途中で聞いたけど、また何か妙な……噂なのかな。
狼とか吸血鬼とか。
土蜘蛛と違って日本にはいなさそうな人っていうかモノだけどねぇ?
夏休みも学校の方から何か知らせとかあったりするのかね!
この日はデスパレードに顔を出した。
未だ少し早めの時間帯だったせいか、人の姿はまばらである。
それでも別に活気がないという事はなく、いる人間は何やら賑やかに会話していた。
入り口近くにいた岩崎燦然世界と玖凪蜜琉は、身振りを交えて笑いながら喋っていて(肉とか非常食とか聞こえた)、その影に隠れる様にして赤金茜が何かを見ている。
何の気なしに視線を向ければふと目が合った。
慌てた様に赤金は持っていた紙で顔を隠すが、訝しく思う前に、その紙に見えた言葉と写真に息が止まる。
嫌な具合に騒ぎ始めた『声』を抑えて近くに寄った。
「……赤金クン?」
「は、はい?」
「それ、どうしたの?」
ああいけない、声がざらざらしている。良くない。落ち着け。
赤金は『それ』が何を指しているのか分からなかったのかきょとんと首を傾げる。
その膝の上には何枚ものパンフレットやチラシ――見出しから判断するに全て宗教関連だろう。
無言のまま指差せば、赤金は数度口を開閉させてから怒涛の勢いで喋り始める。
「ああ、えと、これはですね、ちょっとその……探し物というかいや探し物と言いましても物という訳では無いのですが、ああいえかといってなんと表現したものかは分からなくて、ってそうじゃないですね、ええ、と、ところでこういうのは矢鱈滅法に凝った作りのとかあってその分の創意工夫を読みやすさに回せばいいのにと思ったりしませんか、ねぇ」
……ええと。
並ぶ単語の羅列を心中で復唱し、微妙に意図が通じていないのを悟る。
しかし今のは言い方がまずかった。『それ』がチラシ全般と取られても仕方ない。
まあ、それならそれで別に構わないのだが。
赤金は手に持っている一枚には然して執着していないという事だろう。
「探し物?」
ああ今度は普通と同じ。問題ない。
いつもと同じ私の声。
「ええ、まあ、その、ちょっと、ええ……」
ほんの少しだけ困ったように、赤金は語尾を濁らせた。
手に力が篭っているのか、持ったパンフレットの両端には皺が出来ている。
「……何探してるかは知らないけど、さ」
再度、その一枚を指差した。
「そこの神様、偽者だから止めておきな。探し物の、何の役にも立たないよ」
「――――」
赤茶の目を瞬かせ、次いで手に持った紙に視線を落とす。
文言としては特に目新しいものもない、無難といえば無難、受け入れられやすい文章がそこには並んでいるはずだ。
「そうですか」
ぽつりと呟くと、赤金は一切の興味を失ったかのようにパンフレットを一瞥して、雑巾を絞る手つきでそれを丸める。
縦長の筒になったそれを傍らのゴミ箱に投げ入れると、膝の上にあった一枚を取り上げてまた眺め始めた。
顔が隠れるほどに近づけてチラシを見ている(そんなに目が悪かっただろうか)巫女の首には十字架が掛かり、腕では数珠が鳴る。
それだけ求めて、更に何を探すというのか。
否定をする気は毛頭無いが、よく分からなかった。
投げ捨てられたパンフレットを見やる。
縦に幾重も線が入ってぐしゃぐしゃになったそれの端に載っている写真。
穏やかに微笑むその顔に、今朝見た鏡の中の人間の面影を見付けて頭が痛くなる。
いや、正確には逆なのだけれど。
鏡の中の人間が、写真の人間の面影を持っているに過ぎない。
気付かれない様に紙袋の下、小さく溜め息を吐いた。
少しだけざりざりと声が大きくなったので目を閉じる。
ロクでもない。
白い色が見える。
こえがきこえる。
「……うむ、確かに餅にチーズとベーコンも存外に合う!」
「そうよねぇ! カステラにバニラアイスとか、マシュマロとココアとか、組み合わせって大事よぅ?」
「だな! しかし椎茸が一番なのは譲らん、焼いた物にソイソースをかければ正にシンプルイズブリリアントと申せよう!」
燦然世界と玖凪の会話が耳に入り(しかし内容が見えないが何について話しているのだろう)、目を開いた。
開いた先に白い部屋は無く――普段通りの結社の風景。
『声』もその賑やかさによって少しずつ引いて行く。
その事実に安堵して、小さく息を吐いた。
(安堵している様では駄目なのだけれど)
(もっと強く強く強く強く強く私は菫菫、菫、菫)
(固めろ。固めろ)