PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
―― IN アザレア国際交流センター
全く辛気臭いねぇ。
廃墟を見上げて菫は思う。
日本にどれだけこの様に打ち捨てられた建物があるかは知らないが、全部が全部此処まで辛気臭い訳では無いだろう。
或いは、「ゴーストの湧く場所」という意識があるからそう見えるのか。
まあ、何でもいいか。
あっさり思考を投げ捨てて、既にイグニッション済みのその肩にガトリングガンを担ぐ。
時間が空いたから来ただけで、同行者はいない。
探せば、銀誓館の生徒二、三人ぐらい見付かるだろうが――たまには良いだろう。
一人ならば途中で面倒になったらすぐに離脱できる利点もある。
ベルトに惨殺ナイフを差して、菫は首を回した。
「じゃ、行こうか」
ざわざわと『声』が同意した。
建物内部は埃っぽい。
遠くで響いた物音は、ゴーストを倒したものか倒されたものか。
一回中に入ってしまえば、どういう訳か他の生徒と出会う事は無い。
最も、菫は内部で合流しようとした事が無いので、やろうと思えば出来るのかも知れないが。
萎びた花の垂れる花瓶を横目に、菫は転がっていた壁の残骸を勢いよく踏み付けた。
乾いた音を立ててそれが崩れる前に、背後に気配が現れる。
三体、っと。
死人の居場所を探知する能力は持っていないものの、さすがに至近距離ならば数程度は分かる。
振り向きざまに撃ち込んだ弾丸は、スーツ姿の腐乱死体の頭を吹き飛ばした。
当たり所が良かったのか、その一発でゾンビは床に伏して動かなくなる。
油断する暇など当然あるはずもなく、残る二体――ゾンビとオオカミ妖獣が飛び掛ってくる。
オオカミの飛び掛りは体勢を低くしてかわし、首に手を伸ばしてきたゾンビは横っ面をガトリングガンで殴り飛ばした。
柔らかいものにめり込む感触が鈍く伝わってくる。
追撃を仕掛けてきたオオカミの腹部の剣が浅く肩を裂くものの、無視出来る痛み。
紙袋の下で薄笑いを浮かべたまま、ゾンビの腹部に向けて一発。
大きく跳ねた死体は力を失い手を落とす。
背を向けた菫に向かい、オオカミが三度、喉笛を食い千切ろうと飛び掛る、が――。
「私、お前はちょっとだけ嫌いなんだよねぇ!」
獣の行動など読み易い。
大きく開いた口に、ガトリングガンの銃口を突っ込んだ。
――何だかなぁ。
実際にこそ出さないものの、欠伸でもしたい気分で五階への階段へ向かう。
普段の人数ならば、ゴーストも気配を嗅ぎ付けやすいのか、それだけ強力なのが集まってくるが――。
本日は菫一人。
大して興味を惹く獲物では無いのか、襲ってくるのは偶然かち合った様な連中ばかり。
質は悪くても量はいるという話にしても、攻撃範囲内にさえ入ればブラストヴォイスでほぼ全て葬り去れる。
まあ、そもそも『命懸けの戦闘』というものにさして情熱を注ぐ性質でも無いから良いといえば良いのだが。
ふと視界に入った青白い光の元に、少女の姿を認めてガトリングガンを撃つ。
遠距離からの雷撃を放つ前に、リビングデッドは上半身と下半身を分かたれて床に落ちた。
ぐちゃりと重い湿ったものが落ちる音がする。
ああ、そういえば、人のリビングデッドを相手にする事を嫌がる人もいたね、とふと思い出した。
菫にとっては、ゴーストはどれも一纏めで「害」でしか無い。
ただ時折、それに同情する能力者がいるのは知っている。
理解は出来ないが――それを馬鹿だと笑う気も無い。
人の形をしているからと、人形を壊す事すら躊躇う人間とて数多いのだから、元が本当に人間であったのならば尚更だろう。
自分たちとは別物だと割り切れるか割り切れないか。
割り切れた方が好都合ではあるが、割り切れない方が人間らしいのかも知れない。
どちらが正しいという訳でも無いだろう。
菫は単に、「暇潰し」にゴーストを倒しに訪れる程度には割り切れた方に入っただけだ。
共存できないなら潰しあう。
――現状、鼬ごっこの様相を呈しているようにも思えるが。
僅かに頭が痛む。
余計な事まで考える余裕があるせいか、『声』が頭を過ぎる回数が増えている。
「早く頭潰して、戻るかな」
独り言は自己の確認。
囁き続ける『声』は親愛なる友人ではあるけれど、「鬼頭菫」とは分離すべき存在。
確認しなければ確認しなければ確認しなければ。
『声』が自分なのか自分が自分なのか自分が菫なのか菫は菫なのか。
それでも周囲に人がいないならば、自分以外の声が聞こえないならば、わざわざ大きい声は出さないで済む。
自分にだけ自分の声が聞こえればいい。
「私は菫」
階段に足をかけながら、菫は小さく溜息を吐いた。
五階に足を踏み入れて思い浮かべる言葉は、「嵐の前の静けさ」だ。
踏み込んだ瞬間は音も無く、正に打ち捨てられた廃墟に相応しい静寂。
が、それも更に一歩、踏み出せば――。
ぞりり。
「……はいはい、始まり始まり」
刃物が肌を撫でるような感覚と共に、部屋中に満ちる怨嗟の声。
目指す頭は、部屋の中央!
ガトリングガンを握り直し、菫は広い部屋を駆ける。
雑魚には用無し!
雅鎖螺の爪が足を裂く中アリイノシシの突進を避け、ナミダの衝撃波に頭を揺さぶられるもゾンビガールの頭を砕く。
聞こえる呻きは敵か自分か。
居並ぶゴースト従えて、立ちはだかるは鎧姿の復讐鬼!
「さて潰そうかっ!」
視界に姿が入ると同時、狙いを定めて銃弾を放つ。
鈍い光を纏ったそれは、武者の鎧に弾かれた。
鎖を鳴らして寄り来る鎧は二振りの刀を左右に薙ぐ!
短く息を吐きながら、菫は数歩後ろに退いた。
刀は胸元と腹を浅く割いたに過ぎない。
ガトリングガンの持ち方を変え、憎悪に光る面に向け、渾身の力で殴り付ける!
兜の一部が陥没するが、武者の動きは止まる事無く。
貫く銀に、脇腹と腕を抉られた。
想定以上の深さに軽く舌打つその間にも、断ち割らんと振りあがる刀!
獲物を持った右腕を上げる暇も無く、横からの衝撃に飛ばされる。
転がりながら体勢を直す眼に入るは、鼻息荒い獣の妖。
先ほど無視したアリイノシシが突進をかけてきたらしい。
「あは、感謝かなっ!」
弾き飛ばされた際の鈍痛はあるが、武者の二刀は空を切った。
間髪入れず、息吸い紡ぐは空気を震わす破滅の音階!
アリイノシシが、武者の背後に従う影が、悲鳴も上げずに掻き消える。
余韻も薄れぬその内に、鎖の音は近くなり、眼前に閃くは刃物の光。
被虐嗜好は持たざる身なれば、左肩裂く痛みと熱は即ち不快。
空虚に光る眼窩を見上げ、菫は小さく笑いを深める。
「お返し」
惨殺ナイフを引き抜いて、武者の眉間に突き込んだ。
ピ、シ、リ。
視覚からの印象による幻聴かも知れないが、陶器が割れる様な音を立てて、武者の顔が崩壊する。
薄れる姿と共に、残っていた他のゴーストも存在を保てなくなったのか身を土に還していった。
残ったのは、いや、戻って来たのは再びの静寂。
片手に握ったナイフを上げていた手を下ろし、壁にもたれて座り込む。
脇腹が痛い。
ナイフを片付け、蟲を負傷した箇所に集めれば、緩やかに傷は癒えていく。
――全く、いけない。
「うんいけないいけないね僕と私とした事がうん次は注意する次が無い次の為に分かっているよ」
油断だよ、と耳元で注意を促し囁く『声』に返事をして、見えない姿に笑いかける。
まだ痛む脇腹も、出る頃には蟲がすっかり治してくれるだろう。
念の為に武器は担いだままで立ち上がった。
肌の下で動く蟲を感じながら、今来た道を戻り始める。
――ああそうだ、素敵な音をデテクットル二十二次元人から教えて貰ったんだ!
一度口笛を鳴らして音を取り、「教えて貰った」音階を紡ぐ。
言葉の無い歌は小さく小さく廃墟に響き、そしてあっさり消えて行った。
PR
Comment