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PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
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携帯電話が部屋の何処かに投げ捨てられている理由。
高校一年、初夏になろうかという時期の出来事。


 

――ピリリリリリリリリリッ。
響いた音に、寝入りかけていた菫は頭を押さえた。
半ば条件反射の行動だったが、『声』にしては頭痛もしないし耳鳴りもしない。
更に数度聞こえた所で、それが携帯電話の着信音だと気付く。
視界の端で騒がしく瞬く光に眩暈に似た不快感を覚えて手を伸ばす。
手は何度か床を叩いたが、無事に目的のものを掴んだ。
引き戻す途中で開いて、骨張った指は通話ボタンを押す。

「はい?」
『――菫君?』

名を呼ぶ男の声には、微かではあったが覚えがあった。
顔を覚えるのは不得意だが、声ならば多少は聞き分けが出来る。

「……そうだよ。久々だねぇ、相馬さん」
『ああ、覚えていてくれたか。夜分にすまない。元気かな』
「お陰様で!」

僅か笑いを含めた言葉に、電話口の向こうの相手が僅か閉口した様子が感ぜられた。
本気のつもりだったが、どうやら皮肉と取られたらしい。まあ、どうでもいい。
嘆息した男は言葉を続ける。

『高校に入学したんだって?』
「お陰様で!」
『……菫君』

同じ言葉を返したら、窘める様な声が聞こえてきた。
――ああ、なるべくなら関わりあいたくないのは、あちらも一緒!
ならば、悪ふざけは程々に早めに会話を終わらせる努力をするのが互いの為だろう。
そう判断すると菫は若干トーンを落とした。

「――お陰様で、高校からはどうにか通えそうかな」
『そうか』
「で? 顔も見たくない声も聞きたくないはずの私に仕方なく連絡してきた理由は?」
『……これはまた、厄介な挨拶をどうも』
「あっは、気に障ったのなら悪かったけど、事実じゃない?」
『否定はしないよ。出来るなら一切、君とも、君の家とも関わりたくないのが本音だ』
「私も二度と関わりたくないんだけどねぇ、あの家」
『残念ながら君は未成年だ。見付かった場合に連れ戻される可能性が高い事を自覚してくれ』

先の言葉に対抗したつもりか、やや皮肉気に告げられた言葉に目を細める。
物の少ない部屋の中では、目が慣れてもローテーブルと座椅子程度しか視界には入らない。
殊更に声を明るくする。

「連れ戻された場合、そっちも未成年者略取とか強制棄教とかで訴えられる危険性がある事もね!」
『……確かに、やられかねないが……君が言わなければ私の名前は出ない。恩を仇で返す気か?』

面白い位に低くなった相手の声に知らず笑いが漏れた。
悪ふざけは程々にと自戒したのは早速崩れてしまったようだ。
こういう時、自分は少しばかり性格が悪いのだろうな、と思う。

「冗談だよ冗談! 相馬さんがおとなげないから!」
『……君は相変わらず子供らしさとは無縁だね』
「子供らしく無邪気に馬鹿な教えの手伝いを馬鹿正直にしてるよりマシだと思うんだよね、私」

再度、電話の向こうで溜息。
それに篭っているのは何の感情か、知らないし特に知りたくも無い。

『まあ、そうだな。世間話はこの程度にして、肝心の話だ』
「随分とトゲのある世間話で!」
『真面目に聞いてくれ』
「私、鬼頭菫はいつでも真面目だよ?」
『だからそれが……いや、いい。菫君。君は、何処の高校に入ったんだ?』
「あれ、この番号知ってるって事は爺さんに会ったんじゃないの?」

使われない携帯電話の番号を知っているのは、祖父だけだ。
菫は他の誰にも教えていない。
案の定、電話の男は肯定した。

『ああ、会ったよ』
「聞かなかったの?」
『私が何者だか分からないから、居場所までは伝えられないと。随分警戒されたよ』
「……あの家と関わりたくないのは、爺さんも一緒って事さぁ」
『散々粘った結果、番号だけ教えるから本人に聞け、と』
「黙り込んだら喋らない爺さん相手によくやったもんだ!」
『自分でもそう思う。で、君もその苦労に報いてくれ。一体、何処にいるんだ?』

段々と早くなる会話の間隔で、相手が少しずつ苛立っているのが伝わって来る。
時間に追われている訳では無く、会話を早く打ち切りたいのだろう。
菫は一度視線を中空に向け、答えた。

「――……銀誓館学園だよ。鎌倉。それが?」
『関東か。――ならば問題無いか』
「何が?」
『……人がまた増えたらしくてね、北海道の方にも支部を作るとの噂が届いた。支部長になるのは、上の方の人間だろうから』
「私の顔を知っている可能性が高い、って?」
『ああ。もし、君がそちらにいるならと思ったが――完全なる杞憂で何よりだ』
「おとなげない上に心配性だね、相馬さんは! 広いし人も多い。例え私がそっちにいたとしても、滅多な事じゃ見付からないさ!」
『そう考えていてもね、世間は狭いって言葉もある』
「ご心配、痛み入ります、って所かな!」
『菫君』

おどける様に返した言葉、また諌める声。
ざりざりざりざりざりざり。
いけない耳鳴りがし始めた。

「分かってるよ」
『そうは思えない』
「……いいや、分かってる。見付かって連れ戻されたら、私が幾ら自分の意思で出たと叫ぼうが、『我々の精神の安定を揺るがす者の手によって、心を乱されたのでしょう』とか悲痛ぶった表情で『先導』が言うだけで終わりだ。誰も信じない。誰も」

顔から表情が消えたのが自分でも分かった。
菫の言葉を続けるように、男が答える。

『――発言を訂正して、手伝いを再開するまで、君は確実に軟禁だろうね』
「分かってる。私だって、居もしない神の糞下らない教えを延々寝る間もなく聞かされたくなんかない」
『再開しても出られるかどうか。今度は恐らく助けられないよ』
「分かってる。――私は鬼頭菫だ。在りもしない理想を謳う詐欺師に、後継と引っ張り出されるのなんか、死んでも嫌だ」

呪詛でも放つ様に吐き出した言葉の後、会話が途切れた。
噛み締めていた歯に気付き、今度は菫が深く息を吐く。
ざりざりざりざりざりざりざりざり。
ああ黙れ黙れ今は『声』は必要ないんだよ。頼むから黙ってくれ。
気分を変えるように頭を左右に振る。

「……まあ、中学校の初めに家を出て、何年経った? 成長期のこの数年の差は大きいと思う。背はかなり伸びた、声も変わった――顔まではそう変わっちゃいないけど、一目見て気付かれる程では無いはずだよ」
『それを祈ろう』
「祈るのなんかご免だよ。何も変わりやしない!」
『そうだったね。ああ、だから、それだけ確認出来れば十分だ』

頷くように同意した男の声に菫は肩を竦めた。
会話はもう終わりだろう。『声』も騒ぎ始めた事だし、早めに切るのがいい。

「わざわざどうも!」
『どういたしまして。……そうだ、菫君、おとなげないついでに、意趣返しと忠告をしていいかい』
「うん?」

肯定とも否定ともつかない答えに、電話の相手は一拍置いて、

『気付いているかい? 君の声、「先導様」――君のお父さんとよく似ているよ。そこも気を付けた方がいい』
「――――」

全く、その瞬間に電話を床や壁に叩き付けなかった自制心を褒めるべきだろう。
それじゃあ、と続いた短い別れの言葉を最後に電話は切れた。

心底おとなげない負けず嫌いなのか、所詮は血縁だという念押しのつもりか。

軋む音が聞こえる程に強く握った携帯の通話終了ボタンを押し、暗い部屋、床を滑らせて遠くへ追いやる。
何かにぶつかる音が聞こえたが知った事か。
どうせ祖父以外の誰の番号も登録していないし、そのたった一人にさえかけるつもりが無い電話だ。

「……僕に何を気を付けろっていうんだ?」

ざりざりざりざりざりざりざりざり。

一人しかいないはずの部屋の中で幾つもの『声』が聞こえる。
視線がドア一枚を挟んだ台所へ向いた。
包丁で喉でも突いて声を変える努力をしてみるか?
馬鹿馬鹿しい。
あの連中の為に、自分を曲げる必要が何処にあるのか。
自分は鬼頭菫だ。

ああでも。

『声』が止まらない。

ざりざりざりざりざりざりざりざり。


(耳障りな声) 『薊、薊、あざみ……お母さんはあなたが好きよ、あなただけ好き、愛してる』 (僕は) 望まれし聖奥から溢れ出る賛火の流は生皮苧にも似たテルカロットの請託で (ああ今は聞きたくない、私は) 『いつか僕も、兄さんみたいになる?』『穏やかなる精神を共にしましょう、同志よ』『先導様は素晴らしい御方ですね』 (全く誠心誠意信じている泣きたい位馬鹿で優しい人たち) 『お前はもう少し、考えなよ、薊』黎明の中で彼らは果然として諭告し (うるさい) 『う、あ、あ、ああああああああああああああああああああ!』『――薊が、落ちた?』 (一つになった目が虚ろに見ている自分と同じ色の目が) 『人の心はね、菫。悪意には対抗出来ても、善意には弱いんだよ』『ですが、菫さん、私は諦めません。私が先導様のお言葉を実践し日々励めば、きっと家族も分かってくれます』 (黙れ黙れ黙れ、僕は、私は) 側等三彩気泡から為る処々の星間に叩き込まれるは『愛してるわ、菫、世界で一番、あなただけ』 (薊に向けたのと同じ言葉と感情を) 策さ■#ピルな義意の浄書は*の+をささ許し?「「本当に、そう思っているの?」」 (今は止まれ) 『薊』夜鳴き鳥の絶叫が響く中で撮る採る捕ると僕らはオル『菫』 (私は、僕は、一体、どちらで)


ゴッ。

鈍い音と共に『声』が止んだ。
すぐに痛みが伝わってきて、自分が頭を壁に打ちつけたのを理解する。
頭が痛い。
『声』が菫の意思を超えて響いてくる時の頭痛では無く、実際に痛い。
額に手を伸ばすと、触れた指が滑った。少し割れたらしい。
指先を舐めれば予想通り血の味がした。

「……ちょっと思い切り良すぎたね」

暗い中で誰にも見られる事の無い苦笑を浮かべて菫は立ち上がる。
蟲を使う必要も無く、何か貼っておけばその内に治るだろう。どうせ誰も気にしない。

「私は鬼頭菫」

静かになった部屋の中で自分の声だけが聞こえる。

「私は鬼頭菫」

繰り返す。

「私は鬼頭菫」

取り戻す。  (誰を?)   (「私」を!)

「私は鬼頭菫」

電気のスイッチを入れれば、カーテンを閉め忘れていた窓に自分の顔が映った。
額が赤く滲んでいる以外は、普段と何も変わらない薄笑いを浮かべた顔がある。
窓に手を触れて、その顔に向けて呟く。

「……私は、鬼頭菫」


(名を変えようが姿を変えようが切れないのならば変わる事無く貫くのみ)

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(回を増すごとに長くなるのはどうにかならないものか)

(中の人) 2007/02/20(Tue)21:43: 編集
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プロフィール
HN:
鬼頭・菫(おにがしら・すみれ)
性別:
男性
職業:
学生
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