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PBW、シルバーレインのPC、鬼頭菫のブログ。興味の無い方は回れ右。Cの知り合いの方はご自由にリンクどうぞ。
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日付が変わり、新しい一日がひっそりと始まる深夜の時刻。
菫は駅近くの公園にいた。






子供向けに遊具が二、三あるだけの小さな公園だからか、溜まる若者もいない。
ブランコの支柱に寄りかかって、中空にぼんやりと視線を向けて。
砂を踏む音、待ち人来たり。それに気付いて振り返る。

「どうも、ええと……」

常と変わらぬ薄笑いを向ける先には女性が一人。
年頃は三十に届くか届かないかといった所だろう。
派手すぎも地味すぎもせず、何処にでも溶け込むような格好をした彼女は、呆れたような顔で菫を指差した。

「――あんた、まだ私の名前覚えてないの。西野よ西野」
「必要ない事は覚えてられる頭じゃないんだよね、残念ながら!」
「図体でかくなったならその分、礼儀も身につけときなさいね馬鹿ガキ」
「大人なんだからこの程度流してくれても良くない?」
「高校生にもなって子供ぶってんじゃないよ」
「……十秒前の自分の台詞覚えてる?」
「覚えてる。それが?」

全く淀みもせずに言い返す西野に菫は肩を竦めた。
自分の言動に対し開き直る人間(これには菫も入る)の発言に突っ込んでも無駄だ。

「……それで、いきなり何? 眠いんだよねぇ」
「零時で眠いって、あんたどれだけ早寝早起きの良い子気取ってんの?」
「いや、面倒くさいし別に話すことないから適当な事言ってるだけ! ま、真面目な話、明日っていうか今日、学校でちょっと大きい事があるから、さっさと帰りたいんだけど」
「素直なのはいいけど、言葉選ばないと手ぇ出すよ。拳で。真正面の腹に」

ブランコに腰掛け、西野は煙草に火を点ける。
暴力反対、とまるで重みの無い言葉を返した菫を彼女は見上げた。

「学校ねぇ。まあ存外、普通に生活出来てるみたいで何より」
「お陰様で! そんな事言いに来たの?」
「はい一回死んだ」
「ちょっ!?」

鞄から取り出したスプレーを向け、ライター着火で火炎放射。
流れる様な動きには上半身を横に逸らすのが精一杯。
さすがに狙いは少しばかり外していたようだが、それでもちりっと熱気が伝わった。
微妙に熱い片頬を押さえて、今度は菫が西野を見下ろす。

「……西野さんの方がよっぽどまともじゃない生活してる気がした。たった今!」
「暗かったから明かり点けただけだもーん」

いい年して「もん」とか言ってるんじゃないよという言葉を死ぬ気の忍耐力で菫は留めた。
次は間違いなく迷いなく顔に向けてくる。
そういう大人だ。大人の振りした子供以下だ。

「ま、用事はつまり様子見よ様子見。孝典さんがあんたは何考えてるか分からないって言うから」
「孝典?」
「……相馬孝典。……あんた、本当に名前覚えないのね」
「――ああ、相馬さん! 覚えるの苦手なんだよぇ、私!」
「友達とか困らないの?」
「少ないから!」
「良かったわねって言うべきか、可哀想ねって哀れむべきか迷うわね」

内容とは裏腹に、特に何の感慨もなさそうに西野は呟く。
数年前に見た時は、もっと大きい人だったはずなのだが、と考えて、菫は自分が成長した事を思い出す。
良くも悪くも変わらない人を見ると、自分も大して変わっていない気になる。

「っていうか、何考えてるか分からないって何さ!」
「そのまんまの意味じゃない? 今の所多分戻る気はなさそうだ、って言ってたけど」
「今の所も多分も何も、菫ちゃんは戻る気ないよ!」

笑う菫に、西野は煙を飛ばす。風向きからしてわざとだ。

「夜なんだからその無駄に高いテンション止めてくれない。ウザいから」
「未成年に不健康に煙草吹きかけないでくれない。煙いから」
「打てば響く返答どうも。コンビでも組む?」
「嫌だよ。エスカレートした挙句に西野さんと刺し合って新聞載るのなんかごめんだし」
「まあ過程すっ飛ばせばそうなる気がするわ。でもどうせなら、あんた父親と刺し合って死んでくれない? それ一番なんだけど」

紫煙を揺らす西野の顔に冗談や皮肉は無い。
菫は軽く首を横に振る。

「……いい考えだね。でも却下」
「あら残念。何で?」
「私、死にたくないから」
「自分勝手かつ正当な理由だね。じゃあ仕方無いか」

至極あっさりと肩を竦めて西野は立ち上がった。
罵詈雑言を、剥き出しの敵意を向けられるのは、さして珍しい事でも無いので慣れている。
ゴーストにしても、生身の人間にしても、だ。

厄介なのは、それこそ相馬や西野の様に、「分別を弁えた」大人たち。
弟が帰ってこない、と嘆いていた相馬同様、彼女も母だか姉だかが「先導様」の率いる集団に入って戻ってこないのだと言っていた。
菫に好感など抱かないが、それでも利益は一致するので手を貸す。
感情で動くのは褒められた事ではない、出来る限り合理的に。
けれども、人間だから感情が出る。嫌悪感や憎悪が零れ落ちる。
意図的に放つというより、本人も意識せずに零れるものだから、それは常に不意打ちに近く。

――けれど、まあ。

菫は空を仰いだ。
その程度の不意打ちで、たかだか二、三度切り込まれたぐらいで揺れてたら、「鬼頭菫」を貫いている意味が無い。
既に帰る気の様子の西野は肩越しに手を振り――そして振り返る。

「そういや思い出したけど、あんた今日誕生日だっけ?」
「ああ? うん――」

何で知ってるの、と言いかけて、入学書類の類を用意して検分したのは目の前の女性であった事を思い出す。
ついでに、『あんた生まれてきたのが冗談だったら良かったのにね』と言われたのも思い出した。
心底余計なお世話だ。

「一応言っておいたげるわ。死ぬまでの時間が短くなったわね、おめでとう」
「……西野さんと違って、私はまだ喜べる年だと思うんだけ」

ガンッ!
最後まで言い切ることなく言葉は途切れた。
耳元を何かが過ぎるのと、音が聞こえるのはほぼ同時。

「…………」
「はい、二回死んだ」

視線を後ろに向ければ、木に深く突き立つナイフ。
耳朶に触れると、浅く切れているのが分かった。

「それあげるから回収しときなさいね」

携帯用灰皿に煙草を押し付けながら西野は捻った上半身を戻すと、今度こそ公園から姿を消した。
気配が完全に失せた事を確認すると、菫は溜息を吐いてずるずると地面に座り込む。
疲労感というか倦怠感。

結局、彼女が何をしに来たのかは判然としないが、恐らく、本人の言った通りに様子見で、ついでに言えば気紛れだ。
何を考えているのかはさっぱり分からない。分かっても困る気がする。
父の団体の関係者以外で初めて出会った能力者が西野だったお陰で、子供心に「能力者にロクな人間はいないのか」と暗澹とした気分にさせられたものだ。(学園に入って少し安堵した。皆、よっぽどまともだ)
刺さったナイフを力を込めて抜いて、少し迷うも刃を上にしてコートのポケットに落とした。

ああ全く、蜘蛛のお陰――お陰というのもおかしいが、ともかくそれで、今年は意識しないで済む日だったのに。
首を振って、結局すぐに立ち上がった。
この呼び出しのせいで夜間出発は無理になったが、朝早くのに乗れば少し遅れてでも参戦は出来るだろう。
無視も出来たが、そうすると後が怖い。怖いというか煩わしい。

耳元で聞こえる親愛なる友人の声に混じって、ちりちりと過去の音が鳴る。


(おめでとう、菫。愛してるわ)

(本音言うなら、あんた、いなくなってくれた方が、私たちは安心なの)



空っぽの「愛してる」と、心底の「邪魔」。
マシなのは後者。
しかし、別にどちらも欲しくないのが本音。

「……ロクな日じゃないねぇ」

もう一度首を振ると、菫は半日もしない内に相対するだろう蜘蛛の事に頭を切り替えて、誰も居なくなった公園を後にした。


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無題
名前:西野
性別:女
ジョブ:多分魔剣士×水練忍者相当
別に悪人でも何でもないが、言う事はすっぱりストレート。
菫の学園入学へ切欠を作りつつ年上女性嫌いに拍車をかけてくれた人。


(祝って下さった皆様のお陰で誕生日についての菫の認識は少しは改められたかと思います。
 本当にリアイベぶち当たりで面倒だったろうに有難うございました……!

 というか重傷でも後ろでギターマシンガンやらガトリング撃ってれば平気だったのでしょうか。
 試して死んでたらそれはそれで洒落にならないのですが今更考え付いたので。回転が人一倍鈍い様子です)
(菫の中の人) 2007/04/04(Wed)00:47: 編集
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